世間は狭い
私が何も知らずに歩いてた道は
彼女の帰路でした。
私が無心でピアノを弾いていた場所は
彼女のハコでした。
私が「出てほしい」と勧められていた場所は
彼女のお気に入りの場所でした。
私の幼馴染が演奏をする4日前に
彼女はそこで歌うのです。
彼女の存在を知った時
一緒にいた友人が彼女を知っていました。
私が冬までお預けにしていることは
彼女を表す言葉になっていました。
何も知らなければ
彼女の存在を知らなければ
全部私のものでした。
私の世界に入ってきた彼女は
ぽとりぽとりとインクを落として
私の心に跡をつける。
いくらこすっても伸びてしまうだけで
消えてくれない。
私のものだったはずのものは
全て私が彼女の跡をなぞっていることになってしまった。